概要


エーデルワイス 〜 ふたり暮らしのリノベーション 〜

所  在:神奈川県横浜市港北区

構  造:RC造マンション

主要用途:共同住宅

工事種別:中古マンションのリノベーション

工事面積:67.51㎡

 

竣  工:2016年3月

Blog/Edelweiss

ご夫婦ふたり暮らしのためのリノベーション。
それぞれに多様な趣味をお持ちのご夫婦。
スイスに関する様々な情報を日本へと繋ぐお仕事をされているクライアント。
海外出張が多いこと、また、アスリートと言うと大袈裟かもしれませんが、クロスカントリースキーといったウィンタースポーツの他、登山やダイビング、テニス、スポーツサイクル、海外旅行を趣味とするため、関連する道具類の収納スペースの確保と自然素材を使った空間にリノベーションすること、また、アート作品をつくるためのアトリエスペースの確保もこだわりのひとつとして計画がスタートしました。

 概要としては、2000年12月竣工のマンションをご購入。入居前にスケルトン改装(フルリノベーション)をした上で、お引越しをご希望。
既存状況は3LDK、北側に玄関、中央廊下の両側に洋室2部屋、リビングダイニングに隣接した襖で仕切れる和室といった、ごく一般に見られるような間取り。
北側の洋室は薄暗く、玄関を開けないと通風が取れないこともマンションによくあるケース。

 そこで、自然に近い呼吸する空間、南北の風通し、自然光の確保、動線に配慮、部屋の仕切りを少なくした開放的な空間、将来の自由度、収納の確保が詳細なご要望でした。
ご要望内容とおとなの二人暮らしであることから、小さな小部屋を必要としないことは、計画上の大きなポイントでした。
間仕切り壁を必要とするのは、トイレと洗面・浴室廻りのみ。

それ以外をどれだけ一体的に計画出来るかが、プランニングの骨格のため、光と風の小道をつくることを大切に積み重ねました。
その結果、3本の小道を持つプランになっています。
東西の隣戸に接する壁の小道と中央の小道の計3本。
その3本の小道はぐるぐる回遊できるようになっており、南側の大開口からの光と風が北へ抜け、人も自然もぐるぐるできる空間。
どんより淀む感じを無くすことが出来ました。

玄関横には、自転車が置ける土間スペースもあります。

必要な壁と必要な造り付け家具はなんなのか、何度も打ち合わせを重ねました。

壁の仕上げは、表情を付けた石灰モルタルとコテ抑えのツルッとした石灰クリーム。
適度に湿気の吸収と放出をし、カビの発生がしにくい石灰。CO2に反応して硬化していきます。
ツルッとした仕上がりの壁は、南からの光を北までのばす効果を期待してのもの。効果有りでした。

その他、やんわり目隠ししたい場所には、杉の柱を並べています。
壁を建ててしまうと採光と通風に不利になってしまいますが、列柱とすることでそれを可能とします。

床フローリングは、30mm厚の無垢の杉板。
みんなで床塗装も頑張りました。みんなでやると楽しい時間です。
収納スペースの課題もクリアしました。回遊動線上やデッドスペースをフルに活用です。

開放的で光と風の小道があり、ぐるぐる廻れてアートいっぱいな木のリノベーションです。

きっかけ・要望


私にご依頼をいただく前のこと、
ある建築会社に相談し要望や疑問を伝えたところ、「レスポンスが遅いことや十分な説明を得られず不安を感じていた」と竣工後にお聞きしました。

私にお話があったのは、クライアントのご家族である左官業を営む職人さんからのご紹介でした。
当時は、非常にタイトなスケジュールだったこともあり、その経緯をお聞きし、リノベーションに必要なスケジュールの概要をお伝えしながらご理解を得ることに至りました。


クライアントさんからいただいたご要望は、
・自然に近い呼吸する空間
・採光と通風
・開放的な空間
・将来の自由度
・収納確保

このようなご要望に加えて、
ご夫婦のライフスタイルをも大事にしたリノベーションです。

工夫


< 間取り >
ワンルーム空間を基本としたプランニングです。
間仕切り壁は、洗面・浴室・トイレのみの最小限に。

< 設計・空間デザインの工夫 >
*マンションに多い課題として、北側の薄暗さ(採光不足)と通風の悪さと結露の問題。
特に、玄関を開けないと風が抜けない間取りになっているケースは多くありますね。

そこで、解決策としてのワンルーム空間。
西側隣戸に面する壁面は、光の反射効果を高めるためのツルッとした壁。
南面の開口部の光が北側へのびていくことで、薄暗さの解消になっています。

開口部廻りは断熱性能をあげ防露対策。

*回遊性による通風効果も。
南側のリビングダイニングキッチンから北側の玄関・土間収納・ウォークスルークローゼットまで、3本の通り道をプランニングしました。

行き止まりなしのぐるぐる回れる回遊プラン。
空気が淀むような場所はなく、ひとも空間も呼吸します。
洗面室は2箇所からアプローチすることができ、使用時はクローズに、それ以外はオープンにすることで、光と風が通り抜け。

*収納の適材適所。
大きなスペースを必要とする収納もあれば、細かなものを整理するための収納スペース、見せたいもの、見せてもいいもの、飾りたいもの、隠したいもの。

そのモノによってつくり方は違うもの。適材適所を考慮した収納計画としました。
またそうすることでコストダウンをも可能にしています。

*素材。
床は杉のフローリング30mm厚。無垢材です。遮音等級のある仕様になっています。
壁・天井は、左官職人による石灰クリーム。
原料となる石灰岩から焼成し、手づくりの石灰クリームです。
骨材を入れ3パターンの壁表情としました。
吸湿・放湿効果、アルカリ性による防カビ効果も。
その他、和紙クロス貼。

< コストダウン >
必要最小限の間仕切壁とすることで、施工面積の削減になることの他、造作建具(引き戸)の数も計3枚。
床フローリングと建具の塗装は、施主によるDIY。わたしは立会い、お手本塗りや拭き取り方をアドバイス。


< ポイント >
約20坪の床面積。フルに活かしたいもの。
お気に入りの自転車を置くことができる玄関隣接の土間収納。
アートに必要な道具類や関連書籍、ウィンタースポーツのシューズやスキー板も土間収納に。
採光・通風に考慮した杉柱の列柱。
玄関ホールとリビングをやわらかく繋ぐアーチの下り壁。
パントリー的使い方ができる壁面収納。
キッチンからも洗面室からもアクセスしやすく。
そのパントリーを兼ねた小道は玄関土間収納へ繋がり、勝手口的使い方も可能。
ちょっとしたゴミ出しにも気遣いです。
ワンルームフルオープンにしながらも、トイレの出入りは見えにくい場所に。
動線上の各所に収納スペース。デッドスペースも活かしています。

ちいさな床面積でもできること。
マンションリノベーションだからできること。
写真だけでは説明しきれないことも多いですが、いっぱいお伝えできたらと。


クライアントのご感想


実際にいただいたご感想・・・
「一年通して初めてわかりました。この空間の良さが」と。
「北側のエアコン1台で、夏も冬も快適です。しかもよほどの暑さ・寒さの時以外は、空調なしで過ごせています」とも。
「素足が気持ち良い杉のフローリング」。
「収納計画も大変満足」。

進め方


ご紹介を受け、全体スケジュールのお話をご説明し、現況調査、現況測量を十分にしました。ご要望から、2通りのプランニングをご提案。
一つは要望を重視したもの。もうひとつは、要望を満足しつつ、解釈の仕方を変えるともっと魅力あるプランの可能性を持つもの。
ふたつめのプランへのレスポンス、その場で決まりました。
それからはインテリア空間を図面化し(展開図)、スイッチ・コンセント・照明位置図、キッチン・洗面・浴室・トイレといった衛生設備機器リスト、遮音床、管理組合への届け出、ショールーム廻り、工事見積もりの手配とコスト調整を経て、着工に至りました。
着工後も、メールや電話による進捗報告、現場立会いのもとの説明や素材・色の確認とアドバイス。連絡を密に取りながらのお引き渡しとなりました。

印象


このリノベーションを通して印象深いことはたくさんあるのですが、中でもクライアントのご夫婦です。
ご要望を押し付けるでもなく、リノベーション特有の難しさ、もちろん楽しさを共有していただけたこと。

ご相談の当初、本当にタイトなスケジュールをご要望されていました。
でも良く聞くと、どれくらい掛かるものなのか分からずのもので、コミュニケーションをしっかり重ねることができたことが、ご満足のいくリノベーションに繋がったのだと、振り返ってそう感じております。

アーティストのためのリノベーション


ある国の造幣局で記念コインの彫金をお仕事にされていたクライアント。
退職後も絵画や彫刻、アイアンアートなど、アート創作を楽しむ暮らし。
大きめの工具は土間収納で作業ができ、南側の一番気持ちの良い場所にはアトリエスペース。ギャラリーのような空間になっています。

朝はコーヒー片手にメダカにエサやり。
アートに夢中になったり、自転車やテニス、TVゲームと、とてもアクティブ。
でも、リノベーションして以降、家にいることが多くなったと。
「居心地がいいので家が好き」とのご感想。

アスリートのためのリノベーション


スイスと日本をつなぐお仕事をされているクライアント。長期出張も年に何度か。
取材交渉、通訳、コーディネートと一人で何役もこなしてしまう。
趣味の数も。
クロスカントリースキーといったウィンタースポーツ。
登山やダイビング、テニス、スポーツサイクル、海外旅行。
トライアスロンにもチャレンジしたいと。
これだけの多趣味。関連する道具類もすごい数。
大きな収納スペース。細かい収納スペース。立て掛けるモノ。しまっていいモノ。
アスリートには、また、多趣味になれるということは、整理整頓力が求められるということ。スペースの空間把握。どこに何を置くか。テトリスのような。
アスリートというと大袈裟かもしれませんが、すべてにアスリートメンタルをお持ちのクライアント。
ひとつ課題もありまして、一緒に暮らすアーティスト。
外に一緒に出たいアスリートは、家好きになってしまったアーティストをどう外出させるかが「う〜ん」とおっしゃってました!